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   聞いてみると、その女は初音と言う名で、先祖代々、鳳家に仕えている家の者だと言う。

   彼女の母が、鳳の乳母をしていたので、この屋敷には子供の頃から出入りしていたそうだ。

   「亮様。あなた様は、たぶん。長太郎様の初恋の相手だと思います。」

   「はあっ? 」

   思わず、俺は間抜けな声をあげてしまった。

   なんだ、それは?

   俺は、どう考えても男なのだが。

   それとも、鳳長太郎は幼少期からの男好き。生まれながらの変質者って事か?

   俺が思わず、そんな事を言うと、初音はむくれた顔をして本気で怒ってきた。

   「違います! 長太郎様は、子供の頃、亮様の事を女性だと信じていたのですわ。」

   初音の話では、俺は、鳳長太郎の五歳の誕生日に、この屋敷に招かれた事があるらしい。

   鳳家に縁の深い者は全て呼ばれた盛大なパーティだったらしい。

   今後、この家の当主になる長男のお披露目を兼ねたもので、鳳家に仕えている家の者達も

    全て呼ばれたそうだ。
しかし、俺は全く記憶に無かった。

   「亮様。その時に、こちらの部屋にお泊りになっていました。記憶にありませんか? 

    このお部屋でも、その中庭でも、一緒に遊んだと長太郎様が言っておりました。


   とても綺麗な長い髪をした子だったって。嬉しそうにいつもお話になってました。

    私、子供の頃に写真を見せてもらいましたから。その子、確かに亮様だと思います。」


  《 綺麗な髪の長い…… 》と言う部分に、俺はかなり引っ掛かるものを感じていた。

   確かに、子供の頃、誰かにそう言って褒めてもらった記憶がある。

   おまけに、初音の話を聞いているうちに、小さい頃、俺が両親と訪れた城は、ここだったような

    気までしてきたのだ。


   《 日本に城がある 》と言う印象を持っていなかったので、俺はてっきり外国へ行ったのだと、

    思い込んでいたのかもしれない。


   「おい、その写真って、俺にも見せてもらえるか? 」

   「えっ? 写真ですか? 書斎にあるとは思いますけど。昔のものですので、探すのは

     少し手間取りますけど。それでも、よろしいでしょうか? 」


   俺がうなずくと、初音はポケットから携帯電話を取り出した。ピコピコと数字キーを

    操作すると、扉の鍵がガチャリと開いた。


   廊下へ初音が走って出ていくと、勝手に扉は閉じ、鍵が締まってしまった。

    どうやらホテルのようなオートロックらしい。


   それで、俺は、扉の開け閉めの方法を理解してしまった。

   初音のキー操作が全て見えてしまったのだ。

   俺は寝室へ行くと、ベッドの中に投げ出していた携帯電話を手に取り、入り口の扉に

    向かって同じように操作した。
『 RYO CENTER DOOR 』とアルファベットを入力し、

    決定ボタンを押すと、ガチリと扉の鍵が外れる音がした。しばらくすると、また鍵が自動的に

    閉まってしまった。


   初音は、さらに大切な事を忘れて出ていったのだ。

   部屋のカメラが今は作動していない。

   俺は景気づけに、味噌汁を一気に飲み干した。

   すでに冷え切っていたが、具は俺の好きな豆腐だった。味も申し分なかった。

   俺は携帯を手に握ると、再度、扉の鍵を開け、一階へ向け全力で廊下を走り出した。

   内心、初音を騙したような気がして、心が痛んだ。もしかしたら、彼女は怒られるのでは

    無いだろうかと心配になった。


   それでも、俺は、こんな忌まわしい屋敷からも、鳳長太郎からも、一刻も早く

    逃げ出したかったのだ。


   俺は、パジャマ姿で裸足だったが、かまわずに、一階のテラスから外へ飛び出した。




         その10<脱出>へ続く・・・行ってみる→その10・脱出




          
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