2ページ目/全2ページ 聞いてみると、その女は初音と言う名で、先祖代々、鳳家に仕えている家の者だと言う。 彼女の母が、鳳の乳母をしていたので、この屋敷には子供の頃から出入りしていたそうだ。 「亮様。あなた様は、たぶん。長太郎様の初恋の相手だと思います。」 「はあっ? 」 思わず、俺は間抜けな声をあげてしまった。 なんだ、それは? 俺は、どう考えても男なのだが。 それとも、鳳長太郎は幼少期からの男好き。生まれながらの変質者って事か? 俺が思わず、そんな事を言うと、初音はむくれた顔をして本気で怒ってきた。 「違います! 長太郎様は、子供の頃、亮様の事を女性だと信じていたのですわ。」 初音の話では、俺は、鳳長太郎の五歳の誕生日に、この屋敷に招かれた事があるらしい。 鳳家に縁の深い者は全て呼ばれた盛大なパーティだったらしい。 今後、この家の当主になる長男のお披露目を兼ねたもので、鳳家に仕えている家の者達も 全て呼ばれたそうだ。しかし、俺は全く記憶に無かった。 「亮様。その時に、こちらの部屋にお泊りになっていました。記憶にありませんか? このお部屋でも、その中庭でも、一緒に遊んだと長太郎様が言っておりました。 とても綺麗な長い髪をした子だったって。嬉しそうにいつもお話になってました。 私、子供の頃に写真を見せてもらいましたから。その子、確かに亮様だと思います。」 《 綺麗な髪の長い…… 》と言う部分に、俺はかなり引っ掛かるものを感じていた。 確かに、子供の頃、誰かにそう言って褒めてもらった記憶がある。 おまけに、初音の話を聞いているうちに、小さい頃、俺が両親と訪れた城は、ここだったような 気までしてきたのだ。 《 日本に城がある 》と言う印象を持っていなかったので、俺はてっきり外国へ行ったのだと、 思い込んでいたのかもしれない。 「おい、その写真って、俺にも見せてもらえるか? 」 「えっ? 写真ですか? 書斎にあるとは思いますけど。昔のものですので、探すのは 少し手間取りますけど。それでも、よろしいでしょうか? 」 俺がうなずくと、初音はポケットから携帯電話を取り出した。ピコピコと数字キーを 操作すると、扉の鍵がガチャリと開いた。 廊下へ初音が走って出ていくと、勝手に扉は閉じ、鍵が締まってしまった。 どうやらホテルのようなオートロックらしい。 それで、俺は、扉の開け閉めの方法を理解してしまった。 初音のキー操作が全て見えてしまったのだ。 俺は寝室へ行くと、ベッドの中に投げ出していた携帯電話を手に取り、入り口の扉に 向かって同じように操作した。『 RYO CENTER DOOR 』とアルファベットを入力し、 決定ボタンを押すと、ガチリと扉の鍵が外れる音がした。しばらくすると、また鍵が自動的に 閉まってしまった。 初音は、さらに大切な事を忘れて出ていったのだ。 部屋のカメラが今は作動していない。 俺は景気づけに、味噌汁を一気に飲み干した。 すでに冷え切っていたが、具は俺の好きな豆腐だった。味も申し分なかった。 俺は携帯を手に握ると、再度、扉の鍵を開け、一階へ向け全力で廊下を走り出した。 内心、初音を騙したような気がして、心が痛んだ。もしかしたら、彼女は怒られるのでは 無いだろうかと心配になった。 それでも、俺は、こんな忌まわしい屋敷からも、鳳長太郎からも、一刻も早く 逃げ出したかったのだ。 俺は、パジャマ姿で裸足だったが、かまわずに、一階のテラスから外へ飛び出した。 その10<脱出>へ続く・・・行ってみる→ ![]() ![]() 1ページ目へ戻る 小説マップへ戻る
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